磯俣秋男駐アラブ首長国連邦特命全権大使からのメッセージ

    2月にUAE大学で、また3月にザイード大学で、それぞれの学生たちが組織する日本クラブによるジャパン・デーが行われ、私も出席する機会を得ました。日本の食文化に関する講演、日本滞在経験のある教員による体験談、茶道のパフォーマンスやお手前の体験、書道や折り紙の体験、日本のマンガ作品の紹介、日本語学習や日本留学の案内、日本のお菓子の展示等、熱心に取り組む学生や関係者の皆さんの活動を大変うれしく、また心強く思いました。
 
　UAEのみならず世界中の若者の間で、今や日本と言えば、真っ先に寿司、ラーメンなどの和食、マンガ、アニメ、ゲームなどのコンテンツ、あるいは自動車や先端技術に支えれらた各種機械・機器が、身近なものとして思い浮かべられると思います。しかし、私は、UAEの人々にもっと深く、立体的に日本文化への理解を深めてもらうために、容易に知覚・体感できる対象や実用的なモノのみならず、その背景に多かれ少なかれ存在している精神的な側面へも目を向けてもらいたいと考えています。
 
　例えば、自然への畏敬の念、他者との調和、礼節や規律、侘び寂びの審美感、外来文化の積極的吸収と応用などは、長い歴史を有する日本の文化や伝統を貫いている重要な精神的側面だと考えます。これらは、例えば、UAEの要人からもしばしば言及される日本の「武士道」の中にも体現されており、柔道、剣道、空手道、合気道などの武道においても種々通ずるものがあると言えます。また、茶道や華道についても、同様のことが言えると思います。俳句や禅宗も然りです。
 
　ここで注目したいのは、「道」（どう）という言葉です。私は、この「道」こそが、単なる眼前の技術・技巧、いわば「術」を超えて、精神的側面・価値をも包含するものとしての武道、茶道等の奥深くにある伝統・文化の精髄を如実に表していると考えます。なお、前述の調和、即ち「和」の重視については、日本の社会において日頃から意識されているものですが、これはUAEの政府や人々が常に強調している「寛容」「共生」とも相通ずるものであり、イスラム諸国の人々にとっても親しみやすい部分ではないかと思います。
 
　日本大使館では、3月に裏千家アブダビ茶道教室を表彰し、4月にはナセル・アル・タミミUAE柔道連盟事務局長への叙勲の伝達を行いました。それぞれ、UAEにおける日本文化の普及や両国間の交流促進への貢献を顕彰するものです。私は、UAEの人々が「故（ふる）きを温（たず）ね、新しきを知る」ことにより、即ち、古来の伝統をその背景も含めて深く学んで、日本の文化の拠って立つところを知ることにより、その理解を一層深めてほしいと考えています。今後とも在留邦人の皆様と一緒に、様々な活動の実施や支援を通じ、UAEにおける日本文化の理解促進に取り組んでいきたいと思います。